●時代への期待と失望・・・、島崎藤村『夜明け前』
筆者が読んだ、今日の朝日新聞の文化欄二つ目は、「たいせつな本」欄・・・。
作家の加賀乙彦さんが、島崎藤村著『夜明け前』について言及しておられます。文章題は、「時代への期待と失望 自然も大切な主人公」・・・。
その文章、「明治維新前夜の出来事を、武張った政治の出来事としてではなく、庶民の生活を主として描いた作品として、この作品は私に強い印象を与えた・・・」という言葉ではじまります。
<庶民>の視点から<庶民>を描いた小説・・・。
加賀乙彦さんは、「多くの維新小説が、剣劇、陰謀、戊辰戦争という具合に描かれている」のに対して、島崎藤村は、支配階級の「武士」の側から時代を見るのではなく、「庶民の視点」から見ているといいます。
島崎藤村が、『夜明け前』を描くことができたのは、「島崎藤村が故郷の風土を微細に描くだけの観察の蓄積を持っていたためだと私は思う。」と、加賀乙彦さんはいいます。
「観察の蓄積」・・・。
それは、一朝一夕にできるものではありません。世に散乱する様々な知識を寄せ集めて要領よくまとめても、それは、ただ、<知識の集積>であって、「観察の蓄積」にはなりません。
木曽の「山道を往来する人々」と、彼らが目にする、木曽の「四季おりおりの美しい自然の様子」・・・、それは、木曽路の旧本陣の子供として、生まれ育った島崎藤村の、木曽の自然をこよなく愛してやまなかった、<こころの蓄積>、<思いでの蓄積>、<ことばの蓄積>、「観察の蓄積」が織りなしたものです。
「庶民の視点」に立って、<知識の集積>から脱皮して、「観察の蓄積」に至る、そして、その蓄積を、ありのままの歴史の真実を語る自然主義文学として結晶させていく・・・、島崎藤村の影響は、『部落学序説』の筆者である私にとっても大きなものがあります。
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